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小野不由美:『残穢』(新潮社) [book]


残穢 (新潮文庫)

残穢 (新潮文庫)



内容(「BOOK」データベースより)
この家は、どこか可怪しい。転居したばかりの部屋で、何かが畳を擦る音が聞こえ、背後には気配が…。だから、人が居着かないのか。何の変哲もないマンションで起きる怪異現象を調べるうち、ある因縁が浮かび上がる。かつて、ここでむかえた最期とは。怨みを伴う死は「穢れ」となり、感染は拡大するというのだが―山本周五郎賞受賞、戦慄の傑作ドキュメンタリー・ホラー長編!
基本的には「読んでから観る」派なのだが、本作は映画鑑賞後の読了ということになる。映画版は雰囲気も含めてかなり原作に忠実なものだった、というのが感想。いや、久保さんは30代の編集兼ライターという設定ではあるのだが。

ドキュメンタリタッチの手法は、ホラー小説では今まであったようでいてないもので、そこに新しさはある。切れかかった糸を丹念にたどり紐解くという主人公たちの行動にスリルがあるのだ。なので、ホラー小説かといわれるとそれほど怖くはない。

おそらくは著者の実生活や実在の作家たちが登場する場面など、虚実ないまぜでリアリティを追及するところは映画版より優れていると感じた。だから「読んでから観る」ほうが愉しめるし、そうなると映画版は少し物足りなくなるかも。

◎関連記事
『残穢』

月村了衛:『ガンルージュ』(文藝春秋) [book]


ガンルージュ

ガンルージュ



「あたしたち、最強の相棒。」

韓国最凶の特殊部隊が日本に潜入。
迎え撃つは、元公安のシングルマザー&女性体育教師!?
読むマンガである。だから、「機龍警察」シリーズを期待する人には不満があるかもしれないが、当方は愉しめた。元公安の主婦とロックミュージシャンあがりの中学の女性体育教師のバディもの。この設定からしてリアリティを期待してはいけないのだ。

だいたいが、〇〇〇〇〇の〇を〇〇〇で〇〇〇すなんてありえないから大笑いしてしまう(ネタバレにつき伏字対応)。この著者にこういったコメディ成分があるとは意外な驚きである。重苦しい小説だけでは胃もたれしてしまう。3時間程度で読める上に愉しませてくれる作品だ。

◎関連エントリ
月村了衛:『機龍警察』(早川書房)
月村了衛:『機龍警察 自爆条項』(早川書房)


水野和夫:『資本主義の終焉と歴史の危機』(集英社) [book]


資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)

資本主義の終焉と歴史の危機 (集英社新書)



今週の10日に著者の講演会に行く予定。そのための予習として本書を手に取る。薄手の新書なのであっという間に読めてしまった。
内容(「BOOKデータベースより)
資本主義の最終局面にいち早く立つ日本。世界史上、極めて稀な長期にわたるゼロ金利が示すものは、資本を投資しても利潤の出ない資本主義の「死」だ。他の先進国でも日本化は進み、近代を支えてきた資本主義というシステムが音を立てて崩れようとしている。一六世紀以来、世界を規定してきた資本主義というシステムがついに終焉に向かい、混沌をきわめていく「歴史の危機」。世界経済だけでなく、国民国家をも解体させる大転換期に我々は立っている。五〇〇年ぶりのこの大転換期に日本がなすべきことは? 異常な利子率の低下という「負の条件」をプラスに転換し、新たなシステムを構築するための画期的な書!
本書を乱暴に要約してしまうと、資本主義社会における「成長」は地理的に拡大することで新しい供給元や需要先を見つけることで可能だった。しかし、グローバリゼーションが進み新たなフロンティアがなくなった今、「成長」は困難になっている。それを覚った米国は「成長」を金融市場に求め、一時はそれを謳歌するも、結果としてはリーマンショックを招来する羽目になった。

新たなフロンティアはなく、金融市場にもバブル崩壊というリスクがある以上、資本主義における「成長戦略」は無理筋である。資本主義に代わる新たな仕組みを考え出す局面にある。といったところか。

その論旨には当方も同意できる。先日観た『マネーショート』に印象的なシーンがあった。金融派生商品を説明するものだ。ブラックジャックで賭けている二人を見る人が、どちらが勝つかを賭ける。さらに、その賭けをしている人のどちらが勝つかを…。と、ちょっと理解が違うかもしれないけれど無限連鎖講みたいなもので、誰が最後にババを引くかということである。無限の成長には、無限のカモが必要、と乱暴に言ってしまおう。

平たく言うと、著者は新たな「周辺」がない現在、資本主義による「成長」は無限に続かない、ということを言っているのだ。ではどうしたらいいか。そのことについて、著者もまた明確な解答は持っていない。そりゃあ、何百年も続いているシステムの後釜を個人が想像/創造できるはずがない。

当方個人としては、少なくとも「成長」が不可能となった社会でどのようにサバイバルするか、少しづつ夢想していくしかない、と思っている。


A・E・ヴァン・ヴォークト:『非Aの世界』(東京創元社) [book]


非Aの世界【新版】 (創元SF文庫)

非Aの世界【新版】 (創元SF文庫)


内容(「BOOK」データベースより)
いままさに“機械”によるゲームが始まろうとしていた。成績優秀者には政府の要職が、優勝者には金星行きの資格があたえられる。ギルバート・ゴッセンもこれに参加するべく“機械”市へやってきたが、奇妙な事実が判明する。彼はまちがった記憶を植えつけられていたのだ。自分はいったい何者なのか。ゴッセンの探索が始まるが、背後では銀河系規模の陰謀が進行していた。歴史的傑作。
ははは。わかんないや。自分の記憶とは異なる世界に放り出された男という発端も今となってはありふれたもので新鮮味はない。主人公のギルバート・ゴッセンは、行き当たりばったりに行動するばかり。「一般意味論」という学説(?)がどういうものなのかもわからないので、本書をどのように読み解いていいのかわからない。

と、文句ばかりだが、このとっちらかり感というかおもちゃ箱をひっくり返したようなめちゃくちゃさは特筆していいと思う。金星のテラフォーミングの乱暴さとか、唐突に登場する銀河連盟みたいな(いい意味での)バカさ加減は愉しめた。

今となっては古いと言わざるを得ない物語なので、読むとしたらSFのオールドファンで読み逃していた人限定か。



フランク・ハーバート:『デューン 砂の惑星〔新訳版〕 下』(早川書房) [book]




内容(「BOOKデータベースより)
そして遂に復讐の時がきた。フレメンの一員と認められたポールは、その超常能力から、預言者ムアッディブとしてフレメンの全軍勢を統率する立場になっていた。ハルコンネン家の圧政とポール指揮下のフレメンの反撃に、惑星アラキスは揺れる。状況を危惧した皇帝とハルコンネン男爵は、軍団を引き連れ、再び惑星へと降り立つが…。映画化・ドラマ化され、生態学SFの先駆けとしても知られる伝説的傑作。
ということで通読が完了。率直な感想として、本来はもっと語られるべき何かがあったのに、尺の問題でちょん切られた部分があるのでは、というものだった。つまり、本書にあたる章はだいぶダイジェストされているのではないかということ。まったくの憶測ですが。

物語の終幕も、明らかにto be continued といった体で、もちろんご存じのとおりこの後もシリーズは続いてくのだが。巻を追うに従い難解かつ複雑になっていく物語だったと記憶している。

典型的な物語の王道を装っている本書は、実は相当にグロテスクな世界観を持っている。この下巻でそれは特に際立っているように思う。願わくはハーバート自身の手になる最終巻まで新訳版を出版してほしいものだ。



大野左紀子:『あなたたちはあちら、わたしはこちら』(大洋図書) [book]


あなたたちはあちら、わたしはこちら

あなたたちはあちら、わたしはこちら

どういった経緯でか失念したが、著者のblogであるOhnoblog 2がRSSリーダに登録されている。本書の基になったweb連載はそのblogの案内で知っていたが、積極的に読むことはなかった。

今回、一冊に纏まったことを知り図書館に収蔵されないか待っていたのだが、登録されず。結局購入することにした。出版社がアダルト系だからだろう。連載も18禁サイトだったし。

出版社からのコメント
映画女優たちが扮する様々な姿から、複雑な女性の人生を読み解いて、日々を前向きに生きるヒントを得る。
読んで驚いたのが、とてもよくできた映画評論になっていること。よい書評や映画評は、あらすじをうまく紹介して、その本や映画を読みたくさせること、と何かで読んだことがあるのだが、まさにその感じである。

ちなみに当方が鑑賞したくなった作品は『ルイーサ』、『女はみんな生きている』、『浮き雲』の3本。いずれも興味を掻き立てられる紹介になっている。また、もともとが美術家である著者ならではのファッションやインテリア、そして女性に対する審美眼も切れ味するどいものだ。

これだけの良書が、出版社のブランドで判断されて収蔵されないのは、図書館における選書の限界を感じさせる。機械的にやらないと現在のあふれかえらんばかりの出版物に対応しきれないことはわかっているが、何とももったいない。そんなことを感じさせた一冊。



ルイーサ [DVD]

ルイーサ [DVD]

  • 出版社/メーカー: TOブックス
  • メディア: DVD

女はみんな生きている [DVD]

女はみんな生きている [DVD]

  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • メディア: DVD



魚川祐司 :『仏教思想のゼロポイント: 「悟り」とは何か』(新潮社) [book]


仏教思想のゼロポイント: 「悟り」とは何か

仏教思想のゼロポイント: 「悟り」とは何か

本書はとある人物が推薦していたので手に取る。地蔵というハンドルネームだからでも、坊主頭にしているからでもない。念のため。

内容紹介
日本仏教はなぜ「悟れない」のか――? ブッダの直弟子たちは次々と「悟り」に到達したのに、どうして現代日本の仏教徒は真剣に修行しても「悟れない」のか。そもそも、ブッダの言う「解脱・涅槃」とは何か。なぜブッダは「悟った」後もこの世で生き続けたのか。仏教の始点にして最大の難問である「悟り」の謎を解明し、日本人の仏教観を書き換える決定的論考。
内容は至ってシンプルで、タイトルにあるように「悟りとは何か」を論証する書籍である。そして、これが滅法おもしろいのだ。そのおもしろさが奈辺にあるのか、自分なりに記述してみることにしよう。

まず第一に、立てられた問いが、”仏教の本質である「解脱・涅槃」とは何であるのか”とシンプルであること。そしてそのシンプルな問いに、論理的に筋道を立てて、平明な文章で説明をされているところがいい。よくできた謎解きミステリを読むようなスリリングさがあるのだ。

次に、仏教に関するトリヴィアルな情報が得られるところ。一例として、仏教用語における「苦」は英訳では"unsatisfactioness"いう単語が使われており、我々が一般的に感じる「苦しみ」とは少し異なることだということ。具体的には「終わりのない不満足」であり、それはまた「輪廻転生」という考え方に密接なかかわりがあること。なるほど、と蒙を啓かれる思いがする。

最後に、「余談」として最終章で語られる仏教の歴史が興味深い。ゴータマ・シッダルタが開教した仏教が、様々な人たちに解釈され2500年を経て、何故なおも我々の世界に影響を与え続けているのかが記述されている。なんだか、オープンソースのOSであるLinuxが、様々な派生ディストリビューションを産み出しながら人々に利用されているさまと相似している(そうなのか?w)。

と、いろいろ書き散らかしたが、本書の魅力を伝えきれていないもどかしさがある。あまりの素晴らしさに図書館で借りて読んだにもかかわらず電子書籍で買いなおしてしまったくらいだ。知的興奮を味わえる良書としておすすめしたい。


森博嗣:『小説家という職業』(集英社) [book]


小説家という職業 (集英社新書)

小説家という職業 (集英社新書)







内容(「BOOKデータベースより)
小説家になるためにはどうすれば良いのか? 小説家としてデビューするだけでなく、作品を書き続けていくためには、何が必要なのだろうか? プロの作家になるための心得とは? デビュー以来、人気作家として活躍している著者が、小説を書くということ、さらには創作をビジネスとして成立させることについて、自らの体験を踏まえつつ、わかりやすく論じる。
Amazonの電子書籍の日替わりセールで安くなっていたのだが、図書館にもあることを発見し借りたもの。299円の利益が出たことになる(?)。

内容はまさに上記梗概を、自分の経験を基に説明する書籍。といっても当方は作家になる意欲も才能もないので、主に興味深く読んだのは著者の出版業界に関する予測だった。中身は読んでいただくとして、概ね当方も意見は同一である。

それにしても、読書家人口はこんなに少ないのかね。当方もそれほど読む方ではないが、一般的な基準からすれば高水準か。2時間弱で読める長めのコラム、といった体の本でした。



足澤るり子:『展覧会をつくる―一枚の絵がここにくるまで』(柏書房) [book]


展覧会をつくる―一枚の絵がここにくるまで

展覧会をつくる―一枚の絵がここにくるまで


恥ずかしながら、美術一般にはほとんど興味がない。特定の絵画や画家に思い入れもない。美術館に行ったのなんかもう10年以上前か。高村薫の『晴子情歌』の表紙を飾った青木繁の「海の幸」を東京国立近代美術館に観に行ったきり。

内容
イベントの企画者から、絵画の持ち主、作品を運ぶ人まで、さまざまな人々をつなぎながら美術展開催を実現させるコーディネーターという仕事。長くパリに住み、アートの橋渡しをしてきたひとりの女性の目から見えてくる美術展とは。
著者は仏国人と結婚してからパリに住むようになり、離婚後は通訳の仕事などしていたが、あるきっかけから文化事業のコーディネートの仕事をするようになる。第一章では、タイトル通り展覧会に当地の美術館が望む絵をどれだけ希望通りに借りることができるか、そのための交渉過程や輸送のディテールが描かれる。

第二章では、コーディネートの仕事に関わる人々や友人との交流がテーマ。どの世界でも人間関係が重要であることが窺える段だ。個人主義の権化のように思われる仏国人が、意外や浪花節で義理人情に篤いところなど興味深い。第三章では、著者とその母との最後の時間の思い出が描かれる。

当然のことながら、仕事なのだから相当な苦労をしているであろう著者の筆致は、にもかかわらず肩に力の入ったものではなくあくまで軽やかだ。そこには、一枚の絵を一人でも多くの日本の人々観せたいという著者の理念が揺るぎないものだからなのだろう。

仏国風味の洒脱さがありながら、エッセイというよりは随想という言葉が似合う佳品だ。



晴子情歌 上

晴子情歌 上

  • 作者: 高村 薫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/05/30
  • メディア: 単行本
 
 
 
 
 

晴子情歌 下

晴子情歌 下

  • 作者: 高村 薫
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2002/05/30
  • メディア: 単行本

 


内田樹、福島みずほ:『「意地悪」化する日本』(岩波書店) [book]


「意地悪」化する日本

「意地悪」化する日本

お二人の経歴を見ると、内田樹は知っていたが、福島みずほも東大出身なのね。しかも元弁護士。

内容紹介
思想家と政治家が真剣に語り合ったとき、現代日本を読み解くキーワード、「意地悪」が浮上した。今、戦後レジームのど真ん中に鎮座する権力者が架空のルサンチマンをまき散らし、それに人びとが共振して社会全体の「意地悪」化が進んでいる。こんな日本のままでいいのか? 政治、経済から学問、家族のあり方までを縦横に論じ、私たちの進むべき道を考える。
なかなかきつい内容である。何がきついかというと、悪口を主とした対談だから。いや、これは批判である、という言い方ができるかもしれないが、そこは受け取る個人差もあって、当方は悪口としか思えなかった。

内田氏の主張は、これまでの著作や対談と首尾一貫していていいのだが、ここ最近の政治面への発言はいささか食傷気味。もちろん、危機感を持っての発言なんだろう。でも、当方が氏に期待するものとは違うということですね。この手の対談は、今後は敬遠することにしよう。


篠田節子:『冬の光』(文藝春秋社) [book]


冬の光

冬の光



著者の作品を読むのは初めてだ。配偶者は好きらしいが。これだけ有名な人なのになぜなのかね。登場人物たちの過酷な運命が予感される内容が多いので、だと思う。そういうのって、年を取ってから読むとキツいのだ。
内容(「BOOKデータベースより)
四国遍路を終えた帰路、冬の海に消えた父。企業戦士として家庭人として恵まれた人生、のはずだったが…。死の間際、父の胸に去来したのは、二十年間、愛し続けた女性のことか、それとも? 足跡を辿った次女が見た冬の光とは―
予想通りに、非常に息苦しい小説で愉しんで読めるエンタテインメントではないが、優れた小説にまちがいない。夢中になって読んでしまい、もっとかかるかと思ったら2日で読み切っちゃったよ。

主人公の碧は、父である富岡康宏の死を消化しきれずに、その死の直前に歩いた四国遍路の痕跡を辿っていく。そのうち、小さいながらも様々な不可解な行動を知り怪訝に思うようになる…。章が変わると、もう一人の主人公である康宏自身を中心に、その半生が語られ始める。明記はされていないがおそらくは団塊の世代である。

そこに描かれるのは、典型的な昭和から平成を生きるサラリーマン像であり家族像である。このような人生のありようと、現代社会を対比することが著者のテーマの一つだったのではないか。仕事中心の夫に専業主婦、二人の娘。転勤があり接待があり、バブル時期がありローンの返済がある。ただ、そこで少しだけ異なるのは、友達以上愛人未満ともいうべき女性との関係があった。

主人公の康宏は、人並みの出世欲を持つ普通のサラリーマンとして描かれる。一方で相手の女性は学究の徒であり、自由奔放な考え方を持つ少々エキセントリックな人物である。キャラクタとしては女性の方が立っているのだが、当方は主人公に感情移入してしまった。男として当たり前の欲望を持ちつつ、自分なりのルールを持っているところや、女の勘は恐ろしい的な嘆息を漏らす(笑)ところなど親近感が持てる。

ミステリ的な部分でいえば、そもそもなぜ康宏は自ら死を選んだのかというものがメインだが、他にもビジネスダイアリに記述された「数千円程度の日銭」をどのように稼いでいたのか、お遍路に必要な道具一式をなぜ途中で捨ててしまったのか、などの細かい謎で読者の興味を引っ張る。当方にとっては意外なページターナーだった。

これ以上の言及はネタバレになってしまうので控えるが、ラストで当方は不思議な感動とともに滑稽さも感じてしまった。この種の冷徹さが著者のウリなのかもしれない。著者は広義のミステリ作家というカテゴリで捉えていたが、本書は普通小説に極めて近いテイストである。当方のように食わず嫌いの方がいるならば、ぜひとも手に取ってほしいおすすめ本だ。


為末大:『為末大の未来対談―僕たちの可能性ととりあえずの限界の話をしよう』(プレジデント社) [book]






出版社のメールマガジンで、本書の出版記念対談が開催されることを知った。5,000円もかかるのだが申し込むことにした。

というのは、対談相手の安宅和人氏の著書にいたく感銘を受けた覚えがあるから。行くからには、読んでおかねばならない、と本書を購入し読了。来週に開催されるので、レボは後日エントリしたい。
内容(「BOOKデータベースより)
科学技術が進歩するほど人間がそれをどこまで受け入れられるかが問われる。人間にできないことが増えてくればくるほど人間らしさについて深く考えていく必要がある。
さて、本書は科学技術力を中心として斯界のフロントランナーの話を聴くという趣向。それぞれの話は、もう少しで手が届く未来、といった感じで興味深い。キーワードは「人工知能」、「ビッグデータ」、「医療」、「教育」、「自動運転」といったところである。

もちろん、対談で知り得るのは表層的なものなので、詳しく知りたければ各自の著書や類書を手に取れ、ということなんだろう。当方は早速「データの見えざる手: ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則」を図書館に発注した。

以下になるほどふむむなフレーズを列挙しておきます。

「何を考えなければいけないか」を考えることに、人間の活動はかなり収れんしていく。(安宅和人)
仕事中に集中度が高い人の特徴は見えてきました。(中略)平日と週末で睡眠時間の差が小さいことです。(矢野和男)
(100歳以上の長寿者の特徴として)毎回のお食事にしたって、楽しみにしている方はいますよね。つまり、日常生活のなかでのことを楽しみにしていることだと思います。(新井康通)
私は「大人が子どもの鼻っ柱をへし折る教育」が、これからは必要と思っているんです。(中邑賢龍)

主には研究職にある人々との対談だが、「研究」は、やはり地味でありコツコツとやっていく営為であるということが垣間見えるところも良い。興味が持てない人が無理して読むことはないけれど、知識欲のある人は本書をきっかけにできるのではないか。読みやすいしね。
◎良書です。

イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」

イシューからはじめよ―知的生産の「シンプルな本質」

  • 作者: 安宅和人
  • 出版社/メーカー: 英治出版
  • 発売日: 2010/11/24
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


大﨑孝徳:『すごい差別化戦略 ―競合他社を圧倒する「違い」のつくり方―』(日本実業出版社) [book]


すごい差別化戦略 競合他社を圧倒する「違い」のつくり方

すごい差別化戦略 競合他社を圧倒する「違い」のつくり方



当社には自己啓発を目的とする読書で、読了後に感想文を提出すればその代金を拠出してくれるという有難迷惑有意義な制度がある。それを利用して読書会を開催しなさいという指令が当局より下った。当方がチームの取りまとめ役となり、選書も任された。選んだのが本書である。

理由は二つあって、ご多分に漏れず構造不況業種である当方の居る業界で、いかに差別化を図るかのヒントがあれば、ということが一つ。そして事例集を中心に構成されていることから、普段から読書をしていない人たちにも読みやすいのではないかと思い選んだのであった。
[BOOKデータベースより]
模倣されない意外な理由とは!?25の身近な事例を題材に、価格競争に陥らない、常識を突き抜けた「差別化戦略」の核心を解き明かす。
二つの理由のうち、一目の目的は残念ながら満たされなかったと思う。個々の事例が全社的な戦略としての事例ではなく、個々の局地戦における戦術を紹介しているように感じたから。差別化が、会社そのものではなく個々の商品やブランドの紹介となっているのだ。

もちろん、そこには努力やとことん考え抜いた成果はあるのだが、なんというか腹落ち感が少ないのだ。一番腹落ち感のあるエピソードは、セブンイレブンにおける鈴木敏文氏の考え方だが、それは天才的カリスマ経営者のかじ取りにあるってことだと思ってしまう。

一方で、二つ目の理由である個々のエピソードのおもしろさという面では読みやすく興味深い面がある。ただし、深掘りはされていないのでもっと知りたいという人には物足りないかも。この種の本にありがちな、詳しくは他の本を、という感じになってしまってはいる。

結論としては当方の期待とはすれ違ってしまったということですね。とはいえ、本書をもとにチームでディスカッションせねば。その気になったら内容を紹介します。あー、『砂の惑星』下巻も読まないと…。

石持浅海:『罪人よやすらかに眠れ』(KADOKAWA) [book]


罪人よやすらかに眠れ

罪人よやすらかに眠れ


『砂の惑星』の下巻に手を伸ばしたところ、図書館から本書が届いたメールが来た。先に本書から読み始めることにしよう。
内容(「BOOK」データベースより)
北海道札幌市、中島公園のすぐそばに不思議な“館”がある。公園と同じ名の表札を掲げるその建物に、吸い寄せられるように足を踏み入れた客の境遇はさまざまだ。「友人と、その恋人」を連れた若者、「はじめての一人旅」に出た小学生の女の子、「徘徊と彷徨」をせざるを得ない中年男性、「懐かしい友だち」を思い出すOL、「待ち人来たらず」に困惑する青年、「今度こそ、さよなら」をするために過去をひもとく女性…。そして彼らを待ち受けるのは、北良と名乗るおそろしく頭の切れる男。果たして迷える客人たちは、何を抱えて“館”を訪れたのか? ロジックの名手が紡ぐ6つの謎。
個人的な趣味だけで申し上げるなら、石持作品は短編集のほうが好きだ。本書もまた例外ではない。札幌市にある中島公園の近隣にある瀟洒なお屋敷。そこにはすらりとした主人と猫か狐のような眼をしたその妻、綺麗な娘や執事やメイド、そして美麗な青年がいて...。

内容としては、「座間味くん」シリーズに通じる安楽椅子探偵もの。主人公役の超然としたところなども共通している。ただ、上記のような梗概から想像されるほのぼのとした日常の謎を解き明かすミステリではなく、「人間の業」をテーマにしたものである。全編に不協和音のように流れる不気味さとか、主人公にみられる「無邪気な悪意」のようなものが怖い。

当方は、探偵が謎を解き明かす謎、というテーマを読み取った。なぜ探偵は謎を解き明かし続けなければならないのか。そしてそこにはどんな意味があるのか。いってみれば「反・探偵」小説ということか。暴かれる謎は、いずれも苦みのあるもので決して爽快な後味ではないものばかりだ。

全編ともに短めで、読み応えについては物足りなさは残るけれど、当方は愉しめた作品集。

フランク・ハーバート:『デューン 砂の惑星〔新訳版〕 中』(早川書房) [book]



内容紹介
ハルコンネン男爵の策謀により、アトレイデス公爵は不慮の死をとげ、再度アラキスは男爵の手に落ちてしまう。公爵の世継ぎポールは、巨大な砂蟲が跋扈する危険な砂漠へ母ジェシカとともに逃れ、砂漠の民フレメンの中に身を隠すことになる。しかしこの過酷な環境と香料メランジの大量摂取が、時間と空間を果てしなく見通す超常能力をポールにもたらした。彼はフレメンの伝説の救世主、ムアッディブとして歩みだすことに!
さて中巻である。中世絵巻物的に展開した上巻に比し、中巻はジェシカとポールの砂漠脱出行を中心に展開する。この冒険小説的展開は、意外によくできている。また異種族であるフレメンとその文化の細部にわたる設定やアラキスの生態環境の設定など、当時のSF小説にはみられないものだったに違いない。

砂漠における母子のサバイバルシーンは、なかなかに冒険小説しておりリーダビリティが高い。実際、上巻に費やした時間の半分ほどで読み切れる。大きな意味でのクロスジャンルノベルの先駆けだったのかもしれない。小道具の設定なども見事だ。

一方で、わりとあっさりポールが超常能力を得るところなど、ご都合主義的な展開もある。このあたりは下巻末に収録されている水鏡子氏の解説に大いにうなづける。

繰り返しになってしまうけど、当時としては新しいタイプのSF小説だったろう。生態学や文化人類学などの学問的知見や冒険小説的側面、神秘主義的なヴィジョンなども含めて。

それでは、下巻を手に取ることにしよう。


フランク・ハーバート:『デューン 砂の惑星〔新訳版〕 上』(早川書房) [book]




デューンのシリーズを読んでいたのは、たしか大学生くらいの頃だから実に四半世紀ぶりの再読である。シリーズが進むにつれて、より難解になり読む人を選ぶ小説だと感じた記憶がある。 

【内容】
アトレイデス公爵は皇帝の命を受け、惑星アラキスに移封されることになる。過酷な砂漠の惑星アラキスは、抗老化作用を持つ香料メランジの唯一の産地である。宿敵ハルコンネン家に代わりそこを支配することは、表面的には公爵家に大きな名誉と富を約束する。皇帝やハルコンネン男爵の罠だと知りつつ、公爵は息子ポールの未来のため惑星アラキスに乗り込むが…
これまで当方は、上中下巻の分冊であっても、すべて読み切ってからレビューしていたのだけれども、今回はその原則を破って、分冊ごとにエントリしてみる。じっくりと読んでみたい小説だから。

当方が申し述べるまでもなく、ストーリーライン自体は王道であり凡庸だ。移封された善玉貴族と悪代官めいた敵役、貴族の流麗な息子、一時的な撤退と味方を得ての反攻と勝利…。神話や昔話を思わせる正統派の構造を持つ物語だ。

そこに新しさを見出すとすれば、文化人類学的・生態学的な見地でアラキスの文化や動植物を語る著者の手際だろう。ただ、21世紀の現在ではありふれたものとなってしまっていることは否めない。

ところが、当方には実に愉しく読めてしまった。どこがというと、それは登場人物たちがいずれも超人めいた頭の回転の速さを持っており、それを駆使して相手を分析したりいかに裏をかくか、どのような戦術・戦略を立てるかに腐心するモノローグ群である。

それは繰り返される「計画の中の計画の中の計画」、「フェイントに秘めたフェイントに秘めたフェイント」などの登場人物のフレーズにもよく表れている。いってみれば、どちらが相手の急所を少しでも早く捉えるかを競う知恵比べ小説であるのだ。このあたりの機微は、一定程度の年齢にならないと、そのおもしろさが理解できないのでは、と思う。

さて、本書は序盤ということになる。各登場人物たちの紹介という位置づけで、いずれも一癖ある人たちばかり。これからどうなるかたのしみである。再読だけどね。

関川夏央:『寝台急行「昭和」行』(中央公論新社) [book]


寝台急行「昭和」行 (中公文庫)

寝台急行「昭和」行 (中公文庫)



電車に乗るのが好きだ。blogをしばらく休んでいた間にも、鹿島臨海鉄道・ひたちなか海浜鉄道・大井川鐡道・福井鉄道・富山ライトレールなどいろいろ乗っていたのだ。大井川鐡道では、SLにまで乗っちゃったよ。


内容(「BOOKデータベースより)
鶴見線、寝台急行「銀河」、三岐鉄道、只見線、岩泉線…。寝台列車やローカル線、路面電車に揺られて、懐かしい場所、過ぎ去ったあの頃へ。日本の近代化とともにあった鉄路の風景に思いを馳せ、含羞を帯びつつ鉄道趣味を語る。昭和の記憶を辿る、大人の旅行記。
冒頭部分で寝台特急銀河について語られる。これは懐かしい。当方がまだ30代はじめのころ、本来なら大阪に前泊で行くところを、わざわざ銀河に乗って朝に着くという無茶をやったことを思い出した。寝台特急ってほんとになくなっちゃったもんな。

面白いのは、著者が一貫していわゆる「鉄っちゃん」を同族嫌悪しているということ。中盤で語られる只見線の旅などは相当に鉄っちゃんしてるのにね。そういう気持ちはわからないでもないけれど。

また、鉄道紀行作家の宮脇俊三に関する記述も興味深い。もともとは中央公論社の編集者であり取締役にまで上り詰めた人だというから少し驚いた。編集者としても一流だったようだ。当方は一冊も読んだことはないんだけれど、少し読んでみたくなる上手い紹介のされ方をしている。

そして、終盤ではお得意の近現代の小説や映画作品と鉄道を関連付けた文化論が語られる。このあたりが著者の真骨頂だろうし、やはり一番面白く読める部分だと思う。小林秀雄と坂口安吾の不思議な友情のエピソードなど、この手の本から興味を持って、そこから幅を拡げていくという読み方ができる。基本的にはエッセイ集なので、電車通勤の隙間時間にちょこちょこ読み進められます。

中田亨:『「事務ミス」をナメるな!』(光文社) [book]


「事務ミス」をナメるな! (光文社新書)

「事務ミス」をナメるな! (光文社新書)




本書を手に取ったのは、イヤホンのレビューに登場した「イヤホンをよくなくす人」から、当blogに再登場したいとの要請があったためである。実はその人はイヤホンだけでなく、ATMからお金を引き出してお金を取らずに立ち去ってしまうなかなかの天然ボケユニークな人物である。

それって上記取り消し線部分ではないか、と訊くと、「断じてそんなことはないです! 人に言われても否定しますから!」と、その答え自体もなかなか天然ボケユニークではあり笑ってしまったのだった。

そういったエピソードを防止するためにはどうしたらいいか、という観点から選択されたのが本書。本当は同じ著者のヒューマンエラーを防ぐ知恵 ミスはなくなるか が適切かな、と思ったのだけれど、とっさに手に入らなかったのと、従前から本書には注目していたためのチョイスである。
内容(「BOOK」データベースより)
現代は「うっかり」が通用しない社会である。コンピューターと通信技術の進歩が諸刃の剣となり、間違える時もボタン一つで一瞬のうちに大損害を出せるようになってしまった。事務作業者には、今までと比較にならないほど高い信頼性が厳しく求められている。そもそも工業系の会社は、事故防止の努力を長年続けており、知識と経験を積んでいるのだが、それに比べれば文系の会社の方はミスへの免疫が弱い傾向にある。本書では、新しい視点から「事務ミス」を分析しなおし、ミスや事故が絶えない会社を「ミスに強い組織」に変える具体策を提示する。人はなぜミスをし続けるのか、ミスを防ぐ上で注目すべき力とは何か、さらに、事務ミスを防ぐポイントとして、「手順」や「書式レイアウト」「報告」「通達」「マニュアル」等をどう見直すか、などを、具体例をあげながら紹介する。
一読感じたのは、少々生硬な文章で理解するのにすぐには消化できないというもの。じっくり読まないといけない、ってことですね。読み飛ばすような内容でもないし。

本書は大きく二部構成となっており、第一部がヒューマンエラーが発生する理論を解き明かすもの、そして第二部がそれらをどうやったら改善できるかという実践編である。

さて、本来なら内容をレビューしなければならないのだろうが、実践編の考え方がATMのお金忘れ防止に役立つかどうかを、今回は検証してみたい。本書によると、ミスの解決は「6つの面」から考えるのだそうである。以下の表はその6つの面と、それに対応した具体策を思考実験したものである。

解決方法 具体策
①しなくて済む方法を考える ・お金をおろすという行為自体をやめる。クレジットカードやデビットカードを利用し現金を持ち歩かない
②作業手順を改良する ・ATMでお金をおろす際は必ずマニュアルを持ち歩き、指差呼称などを実施しエラーを極小化する
③道具や装置を改良する、または取りかえる ・最新式のATMでおろす。(おそらく)最新式のものはお金を取り忘れると音で警告してくれる
④やり直しが効くようにする ・一度、作業を途中まで進ませ中途で取り消し。気息を整えた後に再度トライしお金をおろす(やや強引)
⑤致命傷にならないための備えを講じる ・最初に千円だけおろす。その後、取り忘れがないのを確認して、必要な金額をおろす
⑥問題を逆手にとる ・もう、お金を使う生活はしない。飲み物は持参、お昼ご飯もお弁当。外食はなしでお友達と遊んだり洋服を買うのもあきらめる。どうしてもの時は①の方法を併用する


いささか強引な部分もあるが、以上のような具体的取組みとなりそうだ。ただ、どうなんだろう、こんな苦労までしてATMでお金を忘れたくないということが現実的なんだろうか。努力の方向が間違っているような気がしてきた。

実は本書には、ATMでお金を忘れないための仕組みに関しての記述がある(爆) 結論だけここに記すと、一連のシークエンスの最後にお札を出すということにすればいいと書いてある。まずカードを取って次にお金を取る、って一連の流れですね。これはカードとか通帳を忘れがちな場合が多いからの対策であって、お金を忘れてしまうんじゃ、それじゃ対策のしようがないじゃないか…。

というわけで○○○さん、有効な回答は出せませんでした。いずれ天然ボケうっかりが、どのような理由で発生するかという脳のメカニズムに関する本を読んでみたいと思う。どっとはらい。


深緑野分:『戦場のコックたち』(東京創元社) [book]


戦場のコックたち

戦場のコックたち

 
 
 
 
 

【内容紹介】
1944年、合衆国軍のコック兵となった19歳のティム。彼と仲間たちが戦場で遭遇したささやかだが不可思議な謎とは――戦いと料理と〈日常の謎〉を連作形式で描く、著者渾身の初長編
昨年度の各ミステリランキングの上位に食い込んだ本作は、期待に違わぬ秀作だ。老若男女問わずにおすすめできる。特に若い人には読んでほしい。迷わず本屋さんに走るか、図書館で取り寄せ(直木賞候補になっただけに予約待ちになってます)してほしい。以上。

というわけで以下は蛇足である。まず、非常に丁寧に書き込まれてあるところがいい。二段組み349頁の小説なんて久しぶりだ。主には戦闘や戦場のディテールの描写に注力されていて、それは巻末に列挙されている膨大な参考文献からしても明らかだ。そして、その描写がくどいわけではなく、リアリティのある世界を構築しているところに著者の筆力を感じさせる。壮大な嘘をつくには、周囲に細かい真実をちりばめる必要がある、というようなことはよく言われるが、本書はそこに成功しているのだ。

ミステリとしては、戦場を舞台としつつほのぼのとした日常の謎を解く、という話ではまったくなく、相応にハードな題材を扱っている。連作長編形式で、それぞれに日常的な謎があるのだけれど、それは戦場という非日常のなかの日常であり重いものになっている。全体でも、終盤以降の意想外の展開には驚かされた。

そして何よりも素晴らしいのは、本書が少年から青年へと成長していく男とその友情を真っ向から描いている物語だといういことだ。ヤングアダルト小説とは呼びたくない、ジュブナイルという絶滅してしまったジャンルを想起させる。冒頭に「若い人」と申し上げたが、そのくらい良い意味での読みやすさ・わかりやすさがある。

長編第一作目なのに直木賞候補になるのも頷ける秀作。読んでおいて損はない。

そういえば、ミハイロフ中尉の秘密は最後まで語られなかったんだけど、そういういことでいいんですよね(笑)

鳥塚亮:『いすみ鉄道公募社長』(講談社) [book]

いすみ鉄道公募社長 危機を乗り越える夢と戦略

いすみ鉄道公募社長 危機を乗り越える夢と戦略


内容(「BOOK」データベースより)
「ムーミン列車」運行、「700万円訓練費用自己負担運転士」募集、「キハ52型ディーゼルカー」の導入…次々に繰り出されるアイデアが、瀕死の赤字ローカル線を救う。「外資系航空会社の部長」と「鉄道DVD会社の社長」を兼業していた男が、鉄道会社の経営に挑んだ。

先般のエントリで記述したように、著者の講演会の聴講に行くことを決めた時点で購入した作品。結論から申し述べると、語り口は講演のほうがおもしろかったというのが正直なところ。逆に言えば、本書は手堅くまとめすぎというところがあった。

いすみ鉄道という破綻の瀬戸際にあるローカル鉄道の社長の公募に応募するまでの経緯が主として語られる。また、鉄道マニアである著者の思い入れなどの記述も多く、企業再生に関して参考になる部分は(講演内容と比べると)薄い。

それでもね、再生には既成概念やこれまでの因習にとらわれない自由な発想が必要ということはよく伝わってくる。結局のところ、人間は昨日までやっていたことを明日もやっていくということが楽なのだから。会社や地域を活性化するためには、新しい視点・考え方が重要ということなんだろう。

いつの日か、いすみ鉄道に乗らなくちゃならないなあ、とそんな気持ちになってきたよ。


月村了衛:『機龍警察 自爆条項』(早川書房) [book]

機龍警察 自爆条項  (ハヤカワ・ミステリワールド)

機龍警察 自爆条項  (ハヤカワ・ミステリワールド)


内容(「BOOKデータベースより)
軍用有人兵器・機甲兵装の密輸事案を捜査する警視庁特捜部は、北アイルランドのテロ組織によるイギリス高官暗殺計画を察知した。だが特捜部には不可解な捜査中止命令が。国家を超える憎悪の闇は特捜部の契約する“傭兵”ライザ・ラードナー警部の、凄絶な過去につながっていた―組織内でもがく警察官たちの慟哭と死闘。圧倒的なスケールと迫真のリアリティで重厚に描く、話題の“至近未来”警察小説

本書は先般のエントリで絶賛した『機龍警察』のシリーズ第二弾。第一作にあった軽妙な部分はなりを潜め、本書は重厚感あふれる作品となっているのが最大の特徴。その理由は、三人の部付警部の一人であるライザ・ラードナー警部の来歴が語られるから。アイルランドとロンドンを舞台にした彼女の個人史は、想像通り過酷なものだ。

ゆえに、第一作のようにサクサクと読める娯楽作品という面はスポイルされてしまった感は否めない。しかし、読み応えという面では見事と言っていい仕上がりになっている。今後は、同じ機龍兵搭乗員のユーリ・オズノフや姿の過去が語られていくのだろう。そして、もっとも謎多き人物である沖津特捜部長の物語もたのしみだ。


ロス・マクドナルド:『さむけ』(早川書房) [book]

驚いたことに、いや、呆れたことにロス・マクドナルドの小説を初めて読んだ。もちろん名前なら30年以上前から見聞きしていたのに、どうしてこの年齢にいたるまで読まなかったのか。一言で言ってしまえば辛気臭そうだったからだ。

その印象自体は間違っていなかった。たとえば中高生の時分に本書を読んでいたとしても、読了する意欲が沸かなかったのでは、という気がする。一定程度の年齢にならなければわからない小説というものはあるのだ。


新婚旅行の第一日目に新妻のドリーは失踪した。夫に同情し彼女の行方を探すこととなったアーチャーは、失踪の背後に彼女の過去の影が尾を引いているとにらんだ。数日後、彼は手掛りをつかめぬまま夫の家を訪れた。と、そこには血にまみれ、狂乱するドリーの姿が……! 新境地をひらく巨匠畢生の大作。

のっけから余談だが、上記の梗概は出版社のサイトから引っ張ってきたものだが、実は正確ではない。「数日後」とあるが、当方が読んだ限りではリュウ・アーチャーが依頼人の青年と会った当日の夜のこと。そして、「夫の家」とあるが、これも正確ではない。この梗概はおそらく30年来変わっていない。もう訂正しようがないのだろうか。それとも誰も気づいていないのだろうか。

閑話休題。ロス・マクの小説は、濃密な文体で細部描写がこれでもか、と続くようなイメージを持っていたのだが、さにあらず。基本的にはアーチャーが関係者に徹底して質問をしそれを聞くという、会話が主体の小説だということ。だから、存外に読み進めるスピードが速かったのは意外だった。

プロットは、ハードボイルドの王道である失踪人探し。乱暴に言ってしまうと、〔失踪人探しの依頼を受ける→関係者をあたりヒアリングする→失踪人の肖像が浮かび上がる→併せて、関係者相互と失踪人の関連が浮かび上がる〕という図式。その時代・社会の暗部を描き出すために便利な様式なのだろう。

本書が本国で発表されたのは1963年。当方は生まれていなかったのでどんな年だったのかを確認したら、あのダラスでのケネディ暗殺事件が起こった年だ。その前の年はキューバ危機があったり、と、ある意味ではいま以上に不安な社会情勢だったのかもしれない。

そんな時代背景は、やはり本書に深く影を落としている。終始、不協和音が流れているかのように、読書は不安感を感じさせられる。唯一、安定しているのが主人公のアーチャーのみ。彼を道案内に、われわれ読者はロス・マクの描く架空の街"パシフィックポイント"の霧の中をさまようことになるのだ。

読了して感じたのは、もちろん正統派ハードボイルドという括りではあるのだが、極端に言ってしまうとホラー小説としても読めてしまったということ。こんなこというと怒られるかもしれないが。それほど、不安感というか不安定感のある小説だったのだ。

文庫版は1976年の初版から30年23刷という驚異のロングセラー。売れ続けるのにはわけがある。そのわけを知りたかったら読んでみるにしくはない。ただし、タイトルが指し示すように、読み終わってからカタルシスが得られる小説ではないので、そのあたりは覚悟しておこう。


月村了衛:『機龍警察』(早川書房) [book]

機龍警察(ハヤカワ文庫JA)

機龍警察(ハヤカワ文庫JA)


内容(「BOOKデータベースより)
大量破壊兵器の衰退に伴い台頭した近接戦闘兵器体系・機甲兵装。『龍機兵』と呼ばれる新型機を導入した警視庁特捜部は、その搭乗要員として姿俊之ら3人の傭兵と契約した。閉鎖的な警察組織内に大きな軋轢をもたらした彼らは、密造機甲兵装による立て篭もり事件の現場で、SATと激しく対立する。だが、事件の背後には想像を絶する巨大な闇が広がっていた…“至近未来”警察小説を描く実力派脚本家の小説デビュー作。

ありがちなライトノベルのような印象があったので敬遠していたが、ここにきて良い評判を聞くようになり読んでみたところ、これが大当たり。娯楽作品として巻措くあたわぬおもしろさだ。

枠組みは実は警察小説そのもので、組織と個人の相克・刑事による地道な捜査・警察組織内部の対立構造まど、このあたりは読みなれたものには違いない。

そこに「機甲兵装」という兵器の存在が外挿されると、その世界が見慣れぬ風景に遷移するところがすばらしい。本書のレビューでよく言われる「攻殻機動隊」や「パトレイバー」を当方は未見なのでよくわからないが、機甲兵装自体はボトムズシリーズにおけるATのイメージを持った。

そして、本書の最大の特徴は強烈な個性を持つ登場人物たちだろう。最新型機甲兵装に乗り組む三人の傭兵、外務省から出向してきている警視庁"特捜部"部長、メカニック責任者の女性警部補など、いずれもがいわゆるキャラ立ちしている。

著者はもともとアニメーションの脚本家で、当方も見知ったタイトルがあったりするが、小説は本書が処女作。しかしながら、キャラクタ造形・ストーリー展開ともに新人らしからぬ腕前であり見事だ。周知のとおり、本書もまたシリーズもので、すだに続刊が発売されている。

どこかで読んだり観たりしているような題材でありながら、世界観の巧みな組み合わせとストーリテリングで一気に読める娯楽小説になっている。ミステリ好きにもSF好きにも愉しめる一冊だろう。


◎第二巻目です

機龍警察 自爆条項  (ハヤカワ・ミステリワールド)

機龍警察 自爆条項  (ハヤカワ・ミステリワールド)

  • 作者: 月村 了衛
  • 出版社/メーカー: 早川書房
  • 発売日: 2011/09/22
  • メディア: 単行本

深田浩嗣:『ソーシャルゲームはなぜハマるのか』(ソフトバンククリエイティブ) [book]

現在、大手の二社によるソーシャルゲームにはまったく興味がない。むしろ嫌いかもしれない。あまり大きな声では言えないが、ある種の危うさを感じるからだ。もちろんそれは当方の勝手な言掛かりだ。二社が爆発的な売上の伸長をみせているのは、当然のことながら、ユーザの支持を得ているからにはちがいない。

ただね、たまに見るTVのCMの多くが同二社のものだったりするわけで、それはちょっと前に消費者金融パチンコのCMが大量に放送されていた状況と似ている。この二業態が共通するのは"クセ"になるということだと思う。当方も一時期パチンコにはまった時期があった。あれはちょっと時間があるとやりたくなってしまうんだよね。

二社が展開するソーシャルゲームという事業も、「クセになる」という人間の習性をうまく利用しているのだろう。このエントリを書きながら決算短信をみてみたら、両社とも営業利益率が40%台後半、というかほとんど50%だ。驚いたね、ものすごく儲かっているんだ。クセになるという人間の習性がこれほどの利益率をもたらすんだね。

いや、やっかみ・妬みはあるよ、当方も会社員だから。でもさ、それ以上に当方が感じるのは「心配」だ。それだけの高利益率を持つ商売は気まずくないのかという心配と、提供されるサービスを享受するユーザに対して、そんなことにお金使っていいのかいという心配。大きなお世話なのはわかっているんだけどね。当方だって酒飲みでタバコ飲みだし。

そんなことを思いながらも、周りの人間がしょっちゅうケータイでピコピコしているのをみていると、おもしろいのには理由があるのだと思う。そんな興味があり本書を手にしたのだった。


内容紹介
なぜ仮想アイテムが売れるのか?
いかにユーザを熱中させるか。いかに「楽しい!」を引き出すか。
人気ゲーム釣り★スタ」と「怪盗ロワイヤル」を題材に、人を夢中にして離さないしかけを徹底分析。
顧客ロイヤリティを向上させる仕組み「ゲーミフィケーション」の理論と実践を詳細解説!

結論から申し述べると、冒頭で述懐したような興味を満足させられる内容ではなかったです。中盤ではゲームの内容について分析するパートがあるが、ルールブックや解説書を読んでもスポーツのおもしろさはわからないのと一緒、ということにあいなった。

本書を乱暴に要約すると、あれだけの高利益率を誇るソーシャルゲームベンダーの提供するサービスの構造を読み解いて、他のビジネスに応用できないか、というもの。そのあたりのまとめ方は手堅いものがあるのだが、うーん、新しい発見とか驚きは少ない。

ソーシャルゲームがユニークなのは、その熱中する要因が個人の趣味趣向だけではなく、他者との関わりによるものだということなんだろう。その構造を単純に、たとえばネット通販なんかに応用できるのか、といえばちょっと違うようにも思える。モノを買うときの高揚感とゲームをプレイしているときのそれって違うからね。

うーん、あいかわらずまとまりがないな。強引にまとめると、ゲーミフィケーションという構造のとっかかりを学ぶためには、わかりやすくまとまっていて良いが、その向こうにあるものがなかなか見えにくかった、ということになるか。


◎関連書
ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える

ゲーミフィケーション―<ゲーム>がビジネスを変える

  • 作者: 井上 明人
  • 出版社/メーカー: NHK出版
  • 発売日: 2012/01/25
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

深町秋生:『アウトバーン 組織犯罪対策課 八神瑛子』(幻冬舎) [book]


内容(「BOOKデータベースより)
暴力を躊躇わず、金で同僚を飼い、悪党と手を結ぶ。上野署組織犯罪対策課の八神瑛子は誰もが認める美貌を持つが、容姿から想像できない苛烈な捜査で数々の犯人を挙げてきた。そんな瑛子が世間を震撼させる女子大生刺殺事件を調べ始める…。真相究明のためなら手段を選ばない、危険な女刑事が躍動する、ジェットコースター警察小説シリーズ誕生。

期待通りの愉しさを与えてくれるという意味で手堅くまとめた作品といえる。なかでも当方が興味深く思えたのが主人公の女性刑事の性格付け。いや、正確に言うと性格付けを読み取らせない人物造形だ。まるでサイボーグのように淡々と職務と悪さをこなしていく。終盤では満身創痍となるのだが、それでも追跡を止めない姿など、まるでターミネーターのようだ。

逆に、その他の登場人物たちの個性が際立つという不思議。キャリア組の署長や中国マフィアの女ボス、そして主人公に雇われた女子プロレスラー崩れなど、周囲のキャラクターのほうが印象的なくらいだ。

描かれる連続殺人の様相は割りと複雑ながら、主人公はわりとあっさり真相を見抜く。このあたりは物足りないといえばそうなんだが、本書全体が壮大な物語のプロローグ的な位置付けということもあるのだろう。

全体に卒なくこなされた印象の作品。これからさらに化ける可能性もあるので続刊を鶴首して待つことにしよう。


七河迦南:『七つの海を照らす星』(東京創元社) [book]

七つの海を照らす星

七つの海を照らす星

かつて読みたい本を選ぶ際の情報は雑誌や新聞の書評欄で、もちろん今も参考にしているのだが、ここにきて役立っているのは、やはりAmazonのカスタマーズレビューやブログの記事だ。おもしろそうに紹介されている本は、読んでみなくては、という気にさせられる。本書もまた、同じSo-netブログ長屋の"milk pan,milk crown "で紹介されていたもの。


出版社 / 著者からの内容紹介
【第18回鮎川哲也賞受賞作】
様々な事情から、家庭では暮らせない子どもたちが生活する児童養護施設「七海学園」。ここでは「学園七不思議」と称される怪異が生徒たちの間で言い伝えられ、今でも学園で起きる新たな事件に不可思議な謎を投げかけていた。

孤独な少女の心を支える"死から蘇った先輩"。非常階段の行き止まりから、夏の幻のように消えた新入生。女の子が六人揃うと、いるはずのない"七人目"が囁く暗闇のトンネル……七人の少女をめぐるそれぞれの謎は、"真実"の糸によってつながり、美しい円環を描いて、希望の物語となる。

繊細な技巧が紡ぐ短編群が「大きな物語」を創り上げる、第18回鮎川哲也賞受賞作。

いわゆる「日常の謎」系統で連作短編集だから、東京創元社らしい内容といえるだろう。結論から申し述べると、そのミステリとしての結構については、当方に関して言えば、あまり驚愕するようなものではなかった。もちろん、これは個人差だ。

それよりも驚くべきは、その小説のうまさ。まず文章がいい。独特のリズム感があり、ときにリリカル、ときにシリアス・ユーモラスに語られる文章は読んでいて心地よい。

そして活き活きとした登場人物たちの描写。主人公の北沢春菜のキャラクタの清新さ、探偵役をつとめる海王さんが具体的な描写がされないにもかかわらず不思議な個性が浮き上がってくることなど、これまた巧い。

舞台が児童養護施設ということもあり、内容についてはやはり児童虐待の問題など重い題材だ。それに目をそむけさせない小説の力が相俟って、タイトルや表紙画から想像されるほのぼの系ではない力強い小説となっている。刊行が2008年で、当時は評判になっていたに違いないだろう。そんな小説を読み逃してしまうのは当方もヤキが回ったということか。

ところで、著者は筆名や主人公からすると女性なのかな? いや、そのへんの情報がwebにはなかったもので。


日経コンピュータ:『システム障害はなぜ二度起きたか』(日経BP社) [book]

実家も配偶者もともに、みずほ銀行がメインバンクだで、当方のみが三菱東京UFJ。特に理由はないのだが、思い返せば卒業後の入社直前に「給与振込用の預金通帳をつくっておいてください」というお達しを忘れていて、気づいたときにたまたま新宿にいたので、当時の三菱銀行で無理やり間に合わせたのだった。

結果的に、現状の同行のサービス(本支店間の振込手数料無料とか)には満足しているので良い選択だった。そういえば、いまではふらっと入った銀行で預金通帳をつくることなんてできなくなってしまった。なんだかんだいって、20年前くらいは牧歌的だったんだな。


内容(「BOOKデータベースより)
このシステム障害は、経営の失敗そのものだ。みずほはまだ、真因に気付いていない。このままでは、三度目が起こる。

2002年の経営統合時のシステム障害からもう10年経ったのか。そして震災後のトラブルからも1年、月日の経つのはまことに以て速いものだ。

さて、本書は震災後のシステム障害について、その原因や経過を取材したもの。当時の報道で「義捐金の受付口座振込集中」が原因とされていて、「そんなことくらいでダウンするのか」と思っていたところ、本書を読むと本当にそうだったので驚いてしまった。

乱暴にまとめると、振込数の上限を超える振込が発生→それを処理するに当たってエラーが発生→処理しきれずに翌日の店舗開店時の処理漏れが発生→だめぽ、というところ。じゃあ、上限を超える振込には対応できなかったのかというと、その上限の設定をミスっていたということらしい。

振込上限のパラメータ設定は、たぶん個人のほんのちょっとしたミスだったんだろう。にもかかわらず、連鎖的にシステムがダウンし結果として同行は大きな被害を蒙ったわけだ。いやはや、おそろしいおそろしい。

それらを本書の著者である日経コンピュータは丹念に追っていくのだが、これまた非常に感情的な筆致に驚いてしまう。これでもか、という叩きぶりだ。もちろん、当時の経営陣の初動の遅さと情報技術に関するスタンスには正直なところ呆れるところはあるが、それにしてもね。

当方のような素人からすると、本書のような銀行の勘定関連システムのみならず、交通や公共の仕組み、下手したら軍事なども増築に増築を重ねてわけのわからなくなった温泉旅館のようになっているんじゃないかと心配になってしまう。

本書で著者の言うことは正論なのではあるが、いま動いているシステムを止めて刷新するのは技術的にも費用的にも無理があるのではないか。じゃあ、動いているシステムを動かしながら改善していくというのも、結局は後々になってわけがわからなくなってしまう。そのあたりのデッドエンドに関する具体的な打開策が記されていなかったのが惜しいところだ。


荻原浩:『噂』(新潮社) [book]

噂 (新潮文庫)

噂 (新潮文庫)


内容(「BOOKデータベースより)
「レインマンが出没して、女のコの足首を切っちゃうんだ。でもね、ミリエルをつけてると狙われないんだって」。香水の新ブランドを売り出すため、渋谷モニターの女子高生がスカウトされた。口コミを利用し、噂を広めるのが狙いだった。販売戦略どおり、噂は都市伝説化し、香水は大ヒットするが、やがて噂は現実となり、足首のない少女の遺体が発見された。衝撃の結末を迎えるサイコ・サスペンス。

どこかのブログで絶賛されていたのと、Amazonのカスタマーレビューでも評判がいいので購入。ライトなエンタテインメントという期待に違わず、お昼から読み始めて夜中に読了してしまった。都市伝説と連続殺人という組み合わせはそれほど斬新な設定とは言いがたいが、そこにリアルな警察小説の枠組みを組み合わせたことが新鮮だ。

主人公の小暮は、妻に先立たれ一人娘と暮らす所轄の刑事。激務であった警視庁捜査一課から、娘のために所轄に転属を申し入れて数年。年齢は43歳だから、当方と同い年だ。しばらくのあいだ殺しのなかった所轄で発生した連続殺人のために娘と会えない日々が続く主人公の姿がリアル。仕事に対するスタンスや組織へのある種の嫌悪感など、このぐらいの世代の男の考えることっていっしょなんだな。

そして、彼とコンビを組む本庁の女性警部補の名島の人物造形が出色。そのほかの登場人物も含め、陰惨な連続殺人でダークな雰囲気になりそうな物語にコミカルな味わいを付加している。いくらでもおどろおどろしくできる題材を良い意味でライトに読ませる手腕は見事だ。

さて、梗概にある「衝撃の結末」については賛否があるのだが、当方は否かな。作品全体にあるコミカルな雰囲気が反転するようなあqwせdrftgyふじこlp

著者の作品は初読だが、ここまでのストーリーテラーとは思わなかったというのが正直なところ。これを期に他の作品を呼んでみよう、そんな気にさせる一冊。


石持浅海:『見えない復讐』(角川書店) [book]

見えない復讐

見えない復讐

そもそも著者の作品を読み始めたのは偶然の産物で、職場の同期(♀)が『 賢者の贈り物 』を読んでいて、「ふーん」といった感じで当方も購入し読んでみたからだった。以来、近年ではもっとも好きな作家となったのだが、もっと驚いたのは配偶者が読んでいたこと。『 水の迷宮 』は配偶者から借りたものだ。

そんなわけで、著者の作品で未読のものは『 顔のない敵 』,『 人柱はミイラと出会う 』,『 リスの窒息 』の三冊となった。石持浅海成分が乏しくなったら読むことにしよう。


内容(「BOOKデータベースより)
エンジェル投資家・小池規彦の前に現れた大学院生・田島祐也。仲間と三人でベンチャー企業を起ち上げたばかりの田島は小池に出資を求めに来たのだ。やがて小池は田島の謎めいた行動から、彼が母校・東京産業大学に対しての復讐心を抱いていることを見抜く。実は小池も田島と同じく大学への恨みを抱えたまま生きていたのだ―。

さて、本書は『 攪乱者 』や『 この国。 』と同系統の、著者のダークゾーンを垣間見られる作品。もちろん、著者の作品は徹頭徹尾ダークゾーンにあるじゃないか、という突っ込みは聞かないふりをしておく。

そもそも法人に復讐を、だとか、その復讐のために企業を起業するなどというどこかねじくれた論理が一般的な読者には合わないと思う。一方で、著者の作品を好む人間は、その論理がおもしろいと思うのだからしょうがないのだ。

本書はまた、前述の二作と同様に連作短編集の結構をとっているが、おそらくは著者が構想していた結末とはずれた方向に結末が行ったものと感じられる。あくまで勘ではあるし根拠はないのだが。そこがまた不思議な魅力になっているのが特徴の作品である。


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