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宮地尚子:『傷を愛せるか』(大月書店) [book]

傷を愛せるか

傷を愛せるか

  • 作者: 宮地 尚子
  • 出版社/メーカー: 大月書店
  • 発売日: 2010/01
  • メディア: 単行本

著者は一橋大学大学院社会学研究科の教授。といっても、社会学者というわけではなく京都府立医科大を卒業した医学博士で精神科医でもある。研究分野のひとつとして「医療人類学」があり、仕事以外のことならいろんなことを知っている当方でさえ初めて聞く学問だった。

そんな著者の名前を知ったのは今年の三月に朝日新聞の夕刊に掲載された「人の価値が下がる時代 張りつく薄い寂しさ」というタイトルの寄稿からだ。確か、asahi.comで読んだように思うが、当該記事はいまは見あたらない。ここでは全文が転載されているblogを紹介しておこう。

そんな記事を読んで感じたのは、著者が言うことと少しズレているのかもしれないが、なんだか世間は昔よりも了見が狭く窮屈で、無駄とも思える緻密さ・厳密さを求めるようになってきているのではないか、ということ。よーするに、おおらかさがなくなってきていて、それを実感している人も多いと推測する。心を病む人、そして自ら死を選ぶ人が減らないのも宜なるかな、だ。

地球上にはわけもなく命を奪われてしまう紛争地域に住んだり飢餓に苦しむ人々もいるというのに、安全も水もタダに近い我が国は、有史以来初めて実現された理想郷に近いものといっても良いはずだ。けれど、そんなことはないと思っている自分もいる。実際、年間で3万人もの人が自殺しているのだし。平和でありながら視えない戦争を闘っているこの国。うむ、少なくとも理想郷ではないな。


内容(「BOOK」データベースより)
心は震えつづける。それでも、人は生きていく。旅先で、臨床現場で、心の波打ち際にたたずむ。トラウマと向き合う精神科医のエッセイ集。

さて、本書はそんな経緯で知った著者のエッセイ集だ。第一部にあたる「内なる海、内なる空」は主として書き下ろし、第二部の「クロスする感性」は「週刊医学界新聞」(という新聞があるんだね)で連載された米国滞在記、そして書名となっている書き下ろしの「傷を愛せるか」は第三部の「傷のある風景」にアサインされている。

当方は第一部の「内なる海、内なる空」のパートが最も好みだ。ほとんど私小説と言っていいのではないか。簡潔で乾いた文章から仄見えるのは、諦めと希望が同居しているような心象風景だ。特に「予言・約束・夢」は著者のやさしさを垣間見させてくれる名文。

第二部は、良い意味で普通のエッセイ集(いささか暗さはあるが)。表題作は、ベトナム戦没者記念碑にまつわる著者の思いを記述したもので、時代の違いかね、当方には消化しかねるものだった。よく言えばバラエティ豊かなエッセイ集といえるだろう。

当方としては、第一部を読むだけでも買いなのだが、170頁と少しのエッセイ集に2,100円はどうも、という方が多いに違いないともいえる。ここでは、冒頭でご紹介した記事を読んで興味を持たれた方には是非、と言っておこう。


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