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樋口有介:『ピース』(中央公論新社) [ebook]

ピース (中公文庫)

ピース (中公文庫)

盛岡に行ったときに、駅ビルの本屋さんでやたらと本書を推しているのが目に付いた。ご覧のように装画が少し不気味で、POPには確か「意外な結末」的なことがかかれてあったように思う。

その後も少し気になっていたので、出版社のサイトを覘くとなんと出版社の文庫のランキング・ナンバーワンになっているではないか。単行本が刊行されたのが2006年、文庫版が2009年だからえらく遅咲きのベストセラーだ。 出版社か本屋さんかどちらかわからないが、売り手の仕掛けでもまだまだこれだけ売れるんだね。

一方で、冒頭に掲げたAmazonのリンクから跳んでもらうとわかるように、カスタマーズレビュー(以下CR)での本書の評価はあまりよろしくない…いや、有体に言えば酷評されている。これだけ、販売の好調ぶりと評価が乖離しているのはとても興味深い。こりゃあ、自分の目で確かめなければなるまいという酔狂な理由でダウンロード購入したのだった。

ちなみに、本書の文庫版は税込720円。電子書籍版は同525円だから定価の約73%で購入できたので、酷い内容でもショックは二割強は減殺されるはず(笑)。ちなみに、著者の名前は当然知っていたけれど、本書が初読である。これを書いているのは未読状況なのだが、はてさて、どうなることやら。


内容(「BOOKデータベースより)
埼玉県北西部の田舎町。元警察官のマスターと寡黙な青年が切り盛りするスナック「ラザロ」の周辺で、ひと月に二度もバラバラ殺人事件が発生した。被害者は歯科医とラザロの女性ピアニストだと判明するが、捜査は難航し、三人目の犠牲者が。県警ベテラン刑事は被害者の右手にある特徴を発見するが…。

ということで読了したのだが、意外や意外、当方はすんなりと愉しめてしまった。

まず、秩父近辺という、首都圏にありながらそのどん詰まりにある田舎町(失礼)を描く筆が達者であること。こんな町には住みたくないという気を起こさせるくらい、著者の視線はシニカルだ。また、限界集落などという言葉をはるかに上回るような、ほとんど廃村に住む老人の描写などもすばらしい。

次に、その町のスナックに集う人々をはじめとした人間描写が巧い。スナックで厨房を切り盛りする寡黙な青年や地元紙の女記者など、登場人物の誰しもが心にわだかまりを持っていて、それを淡々と感情移入なく描く筆致は容赦ない。

そしてこれは当方の印象に過ぎないが、全編に流れる不協和音というか可聴域下の重低音というか、 つまりは読者を不安にさせる雰囲気をかもし出す手腕がこれまた凄い。その雰囲気で読み進めるのが苦痛かといえばそんなことはなく、飄々とした老刑事を登場させることでバランスをとっているようにも見受けられる。

読み始めたらとまらないとまでは言わないが、それに近い状況で読了した本書がなぜAmazoneのCRであれほど酷評されているのか、当方なりに考えてみた。結論だけ申し上げれば、売り手の惹句と読者の期待にギャップがあったといえる。どんなギャップかというと、ネタバレせずには説明できないので、これから本書を読まれようとする方は続きを読まれないほうがいいと思います。

えっと、繰り返しますが、まだ本書を読んでいない方で、このエントリを読んですこしでも本書に興味をもたれたのであれば騙されたと思って読んでみましょう…騙されるかもしれませんが(当方は出版社とはなんの関係もありません)。720円の文庫なら昼飯を一回(場合によっては二回)抜けば買えるんだし、それが惜しければ図書館で借りたっていいし。というわけで、そこそこネタバレしているので以下白黒反転します。

まず、動機が突拍子もないというレビューがあるが、そんなことは石持浅海の諸作品を読んでから出直して来い、と言いたい。いや、それは冗談として、たしかに突拍子もないのだが、結局は殺人の実行犯とそれを操っていた(らしい)人物はいずれもキ○ガ○だったのだから、普通の人の論理では理解不能という解釈でいいと思う。

次に、伏線と思われる諸々の事柄が回収されないという声がある。これは著者の書きたいことが田舎町に住む人間の群像劇であるという当方の読み方で反論(?)したい。つまり、逍路の過去の殺人の経緯などをはじめとした挿話は、伏線ではなく登場人物の人生の一部を切り取ったものであるということ。だからアル中の同級生の女子大生のエピソードも別段、本筋に関係なくていいということで、少なくとも当方はそう感じた。

また、「意外な結末」に無理があるという意見は、これはごもっともだと思う。確かに"本当の結末"で示されるマインドコントロールによる殺人教唆は少し首を傾げざるを得ない。無理矢理感がある。そして、意外な結末といえば昨今は「叙述トリック」が主流だから、どうしたって読者は騙されまいと伏線と思われるエピソードを鵜の目鷹の目で読み進める。そこで未回収の伏線に対する不満が生じてしまったと当方は推測する。

つまりは「意外な結末」を売りにした出版社だか本屋さんだかどちらかの意図が少しおかしいといえる。これが当方の感じた「売り手の惹句と読者の期待のギャップ」という意味だ。結果として売れているからいい、というのもひとつの見識だが、だからってね、それで一部読者がハッピーになっていないようなのは少しおかしいと思うのだった。どっとはらい。


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